バルミューダの歴史 3

「GreenFan」開発の背景

バルミューダ創業以来、こだわりぬいた製品を目ざした5年間と、その後に痛感した「多くの人に必要だと思ってもらう思うものを作らなくてはならない」こと。倒産の危機を前にして「何が重要なのか」と悩んだ寺尾玄は、「ここで倒れるのなら、作りたかった製品の開発をしよう」と決意します。

その製品とは、以前から関心を持っていた扇風機でした。寺尾の頭には地球温暖化とエネルギーの問題がありました。「暑い夏をなるべく少ないエネルギーで過ごすには、次の時代の新しい良い扇風機が必要なのではないか?」

しかしそれを現実のものとするためには、現在の扇風機を根本的に改良する必要があるのだということも実感していました。

「扇風機の価値とは『涼しさ』ですが、扇風機の風に長時間あたっていると気持が悪くなる。そこで首振り機能が使われるわけですが、今度は風にあたる時間が短くなってしまい、涼しくありません。窓から入ってくる風で感じる『心地よい涼しさ』を、扇風機で作り出せないものかと考えていました」

心地よい風を生む新技術

バルミューダのプロジェクトはいつも「作りたい物」の発想から始まります。このときも可能な限りの研究が始まりました。

寺尾が手にとったのは、流体力学や翼の断面形状に関する専門書でした。それらから空気抵抗の少ない翼面形状を学ぶことはできたものの、「自然界と同じ風」を作る術はどこにも載っていません。まだ誰もチャレンジしていなかったことだったのかもしれません。

「ならば自然の風の研究から始めよう」と、風速計を手に、自然の風のデータを集めることも試みました。従来の扇風機における風の動きも研究しました。

突破口となったのは、以前から通っていた町工場の光景でした。寺尾は工場の職人さんが扇風機の風を工場の壁にあてていたことを思い出したのです。風が壁にぶつかることで風の渦が壊れ、面となって跳ね返る。自然の風に近い状態になっていたのです。

では、扇風機から送り出される風をいかにその状態にできるのでしょうか。ある日のこと、テレビ番組で大勢の子どもたちによる「30人31脚」を目にした寺尾はひらめきます。「歩調の速い子は遅い子に引っぱられる。流体でも同様のことが起こるのではないだろうか...」

「回転速度の異なる風を隣りあわせで発進させることで、速い風は遅い風に引っぱられ、ぶつかりあうのではないか?」。その考えから全く新しい二重構造の羽根を考案、数十種類の羽根を試作し、それらの動きを細かく検証していきました。舞台用のスモークマシンを用い、ガレージで風の流れを探る実験も行いました。

こうして2010年4月、独自の新技術「グリーンファンテクノロジー」を搭載した「GreenFan」がついに完成します。

「風の質」を根本から変えただけでなく、DCブラシレス・デジタルモーターによって最弱運転時の消費電力は4ワット(当時)に。新開発のこのサイレントモーターで運転音もわずか13デシベルに抑えた、かつてなかった扇風機です。

「GreenFan」発表後、「消費電力を抑えながら『心地よい涼しさ』を得る方法」として、多くの人々が新しい扇風機の魅力を感じてくれました。3万円台とそれまでの扇風機では考えられない価格であったにも関わらず、販売を始めた2010年度、そして翌年度と、予定していた台数を完売する結果となりました。

最小の電力で静かに、自然界の風を送り出す扇風機。社員3名になったバルミューダが進んだ次なるステージです。

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