浮力のデザイン

大量の情報と優れた演算能力を持ち運べるという、道具として圧倒的に優れた面を持つノートブックコンピュータ。しかし、同時に私たちはノートブックコンピュータには宿命的な弱点があると考えてきました。それは作業性です。ディスプレイとキーボードの位置関係が変わらないノートブックでは、タイピングする位置にキーボードを持ってくると、どうしても画面が近くなってしまいます。また、画面の位置の低さも、疲れを助長させる原因の一つになっています。長時間の真剣な作業にはこれらの点は大きなマイナス要素として働いてしまいます。

私たちはこれまで、これらの使いにくさを解決しようと、X-Base、Floaterなどのノートブック用製品をリリースしてきました。しかし、外付けのキーボード、マウスを使用するための製品は作ってきませんでした。それが必要だと感じながらも。なぜでしょうか。

その理由はとても簡単。私たちが納得できるデザイン案がなかなか出なかった、ただそれだけでした。私たちはデザイン、品質、使いやすさなど、十分に自信を持ってお勧めできる製品しか作りません。ノートブックコンピュータを外部キーボードと共に使用するためのチルトスタンドのデザインは、これまで継続して何度もトライしてきました。そして私たちが作る必要があると思えるデザイン案に巡り合うまで、実に2年がかかってしまったのです。

Liftの最終デザイン案は、行き詰まって描いた、宙に浮いたノートブックコンピュータのスケッチがもとになりました。何度もトライした揚げ句、何も無い状態を描いてみたのです。浮いた物体には当然、下に影ができます。その影を自分で描きながら、そこに重要なヒントがある事を感じ、興奮した事を憶えています。試しにその絵の隣に「影のない」ノートブックコンピュータを描いてみました。そうなのです。これでは、浮いて見えないのです。「影」がある事によって接地面からの距離を感じ、浮力を感じる事ができるのです。

この影をヒントに、大きな円形のベース、そしてつながりが見えにくい支柱というアイディアが出ました。こうしてあるデザインを探す足掛け2年の旅が終わったのです。実はここからまた、可動部をスムーズに動かすためのチャレンジの日々が始まったのですが、それはまた別の機会に。

私たちの製品デザインに期限や締め切りはありません。なぜなら、優れたデザイン案が出ない限り、その製品は作られないからです。Liftは幸運にも最終デザイン案に巡り合えた製品でした。そしてバルミューダデザインのすべての製品がそうであるように、私たちにとって、とびきりの自信作でもあります。