キャラクターの内面まで感じさせる繊細な描画と色彩。デビュー時から一貫して紙と鉛筆で描くことにこだわる窪之内英策氏のデスクには「描いている絵が見やすいから」という理由でBALMUDA The Lightが使われています。その光の下で生み出される作品やキャラクターへの思い、自身の手描きへのこだわり、そして絵を描くことを通して、子どもたちに届けたい体験について、お話を伺いました。
窪之内英策/ EISAKU KUBONOUCHI
漫画家として「ツルモク独身寮」「ショコラ」で知られるほか、近年は日清食品カップヌードルのTVCMシリーズ「HUNGRY DAYS」では漫画「ワンピース」の登場人物たちが現代の高校生だったら? という設定でパラレルワールドのキャラクターデザインを手掛けたことも話題に。手書きによる美麗で生き生きとしたキャラクターたちは年齢問わず多くのファンを魅了し、特に若い女性からの絶大な支持を得ている。
アナログ特有の体験を大事に
手描きの絵を近くで見ると粒子が見えますよね。色鉛筆だけで重ね塗りしている絵も、粉の雰囲気とか。 このアナログならではの感覚が手描きの魅力ですね。僕はデジタルを否定するつもりはなくて、あれはあれで優れたツールなので、子どものうちからデジタルに慣れることもいいと思うんですよ。ただそれだけになってしまうと人間の持つ"触れる"、"感じる"といったフィジカルな感覚が失われてしまう怖さもあります。例えばレコード盤の音の揺らぎのような、針の振動を拾って、スピーカーを振動させて耳に届くっていう。ああいうアナログ特有の揺らぎ感みたいなものは経験として大事にしてほしいなと思います。
描くことのリアリティとミスに対する寛容さ
BALMUDA The Lightを使っているのは自分の描いてる絵が見やすいからですが、「良い光」は単に色が鮮やかとかそういうことだけではなくて、わずかな紙の凹凸、あるいはそこに鉛筆を落としたときの鉛筆の墨の粒子みたいなところまで感じられます。
そういったアナログならではのリアリティは子どもたちにはぜひ感じてほしいですし、大人の方にも思い出して欲しいですね。描くことのリアリティ、描くことの喜びだったり、それを紙と鉛筆だけでやってるんだよってことを。僕が使っているのも普通のコピー用紙に普通の鉛筆なので、高価な画材とかじゃなく、ありふれたもので描いてるということで「自分も描けるかも」って親近感を感じてもらえると良いなと。
あともうひとつ、僕、ミスに対する寛容さってのをもっと持ってほしいと思ってるんですよ、偶然性を許容するというか。デジタルってやり直しできるのが便利なんですが、アナログって一回ミスると、消しゴムで消せる範囲は消せても、色塗りとかってもう一発勝負なんで、後戻りできなんですよね。そういった緊張感から生まれるもの、その瞬間にしか出会えないものっていうのも、経験値として大切ですよね。
キャラクターは、その一瞬を描くつもりで
キャラクターに対しては「いかにその存在感を感じられるか」というのを一番に考えています。例えばかわいい女の子を描く場合も、必ずそこにキャラクターの過去と未来を頭の中で描くようにしています。幼いころはどんな子で、どんなふうに歳を重ねていくかを地続きで考えて、その一瞬を描くつもりで描いています。
だから、例えば漫画を描くときもセリフひとつに対して、どれだけ真剣にこの言葉を憑依しながら描けるかっていうところで勝負していて……そうしないと読者も感動してくれないですね。その言葉で涙も流してくれないし、魂に触れることはできないんだと思っています。
想像力の伸びしろを絵のなかに残してあげる
アメコミって影がベースなんですよ。大体顔に黒いベタの影を入れたりするんですけど、日本人は浮世絵の時代からほぼ光で描くんですね。影を一切描かないという西洋画にはない独特の表現。僕自身は浮世絵の潜在的な影響が非常に強くて、だから僕の絵も影をほとんど描いていなくて、光の持つ柔らさやハイライトで表現しています。だから、実は影がないんですよ僕の絵は。
浮世絵の美しさって、すごく細かな濃淡で表現することで見る人たちのイマジネーションを広げているんですよね。描き込み過ぎない、色も複雑に塗り過ぎない。あえて白を残したり、あえてフラットにすることによって、逆にイマジネーションをふくらませてあげるっていうところ。想像力の伸びしろを絵のなかに残してあげるってのは、僕のなかではすごく大事にしてますね。
BALMUDA The Lightについて
圧倒的に見やすいという光の良さがもちろん使っている理由ですが、フォルムが非常に愛らしいっていうところで、すごく素敵だと思いました。あと、僕がすごくいいなと思ったのがこのツールボックス。意外とこの部分ってデッドスペースになっちゃいますよね。そこに「ものを入れる」っていう役割を明確に提示してくれたのは、子どもたちもすごくありがたいと思います。
あと地味にすばらしいと思ったのが、ライトをつけるとき消すときに音階で音が鳴ること。アクションに対してリアクションがあるというのは、子どもにとってすっごい大事なんですよ。本来機能的にはいらないもの。大人の自分にとっても、この音をつけたことは価値を感じますね。
僕は子どもの頃から漫画家になるって決めて、いろんな漫画を真似して描いてました。でもただ模倣するのはあまり好きじゃなかったので、オリジナルのテイストをどれだけ加味できるか、そんなことをやってました。自分の記憶や経験、感性を含めることで独自のテイストへと成長していきます。
今の子どもたちにも、ただ絵の模倣をするだけでなく、描きたい対象物のリアリティを感じてほしいですね。幼い頃に入った海、木登りした記憶。失恋したり傷ついたり、そういった視覚以外の感覚も使って、いかにその存在を認識するか。想像力やクリエイティビティを育てるのに、僕はすごく大事なことだと思っています。
インタビュー:2020.2.21