

NASQUILLO(ナスキロ)
肉焼きの可能性を広げてくれる一台
滴り落ちる和牛の脂で火柱が立ち上り、
漆黒の焼き目にナイフを入れると、現れるロゼ色の断面。
「ナスキロ焼き」に魅せられたカウンター客からは感嘆の声が上がります。
高山いさ己シェフが厨房に立つ、新宿御苑の紹介制ステーキ店
「NASQUILLO(ナスキロ)」ではもうすっかり日常の光景です。
そんな肉焼きの鬼才、高山いさ己シェフが
「これ、すごいな!」と声を上げたBALMUDA The Plate Pro。
シェフの手から、見たことのない新しいステーキが生まれます。

新しい肉焼きを拓く、
分厚いプレート
今回、僕が提案する肉焼きはこれまであまりなかった手法だと思います。もともとお店で提供するナスキロ焼きは500度以上にもなる炭火と炎で和牛の表面をガリッと焼き上げながら、肉の内部まで熱を通す、和牛という特別な肉のための特殊な焼き方なんです。
一方、BALMUDA The Plate Proの最高温度は220度。プレートに厚みがあって蓄熱性が高いとは聞いていましたが、店と同じようなアプローチをするには温度が足りないかな、というのが使う前の印象でした。

カットしたひと切れに
ダイナミックな味わいを込める
でも、ナスキロ焼きは僕の肉焼きのバリエーションのひとつで、そもそも炎を上げたり、肉の表面に黒焦げにも見えるくらいの層を作ったりという、表向き取り上げられがちな部分は焼きの本質とはあまり関係ないんです。
大切なのは「肉をおいしく焼くこと」。それだけです。僕が好きなのは表面がガリッとした強い食感で、噛むと肉から熱が吹き出し、いい香りが立ち上り、歯で断ち切ろうとすると肉の繊維がザクッと音を立てる。そんな食感の焼き方が好きなんです。

決してナスキロ焼きにこだわっているわけではなく、カットしたひと切れの肉にダイナミックな表情がある火入れができたらそれでいい。せっかく熱源が違うのならば、いつもとは違う焼き方でやってみようと考えたんです。そしてBALMUDA The Plate Proを試してみたら、自分でも驚くような新しい発見がありました。

全面が高温で安定するから
分厚い肉も自在に焼ける
まずこのプレートがすごいなと思ったのが、全面にわたって温度が安定していること。220度に設定したらプレート上のどこで焼いても220度で焼くことができる。炭火やガスより安定しているから、一度焼き方が決まれば再現性も高い。分厚くて蓄熱性が高いから、食材に触れている部分直下のプレートの温度低下もほとんどないように感じます。
「肉は分厚く」を信条とする僕が肉を焼くときに考えているのは「火入れ」というより「火抜き」なんです。熱は入るべきところから勝手に肉に入っていくもので、むしろいかに熱を逃がすか、休ませるかを常に考えています。ナスキロ焼きは炎に包まれている。だから全方向から火が入っているように思えるかもしれないけれど、肉を6面ある立方体だと捉えたら、熱源に接している下側以外の5面は温かい場所で休ませているイメージなんです。

もちろん、熱源に接した一面がきちんと加熱されているから休ませる意味があるわけです。火が入るから、抜くことに意味が生まれる。このホットプレートは、設定した温度――今回なら220度から下がったりせず、確実に一定の温度をキープできるから、焼いている最中からこれはいけるんじゃないか、という感触がありましたね。
といっても、普段使っている500度の炭火じゃありませんから、水分が含まれた肉の表面にガリッとした食感の層を作るにはちょっとした工夫が必要になります。

砂糖にハーブ
食感の層は工夫で作れる
ガリッとした層のために試した素材で面白かったのは砂糖、そしてハーブの2パターンでした。食感で言うと砂糖はガリッと強く、ハーブはサクッと軽い食べごたえに。どちらも肉だけでは醸し出せない香りも加わって、とてもいい仕上がりになりました。
まず肉の表面にキャラメリゼされた層をつくろうと試したのが砂糖。グラニュー糖を肉の表面につけて香ばしく苦いカラメルの層を作るんです。炭で焼いた深い焼き色にも似たフレーバーもつきますしね。加えて、肉ごと一瞬冷凍庫で冷やすことでガリッとした食感を演出します。プレートの220度という温度は、カラメルを作るのにもちょうどいい温度なんです。

もうひとつはハーブです。今回のレシピではディルを使いましたが、セロリの葉っぱでもパクチーでもちょっとクセのある薄い葉のハーブがいいですね。こちらはハーブを熱して乾燥してサクッと軽い食感に仕上げる。極上のフライよりも軽い食感に加えて、噛むとハーブのフレーバーも鼻に抜けてきて複雑味もある。パクチーとかセロリの葉っぱなどのクセモノハーブだと楽しい味になると思います。
どちらも試したところ、砂糖はある意味ナスキロ焼き以上にザクッとした歯ごたえの層ができましたし、ハーブはとても軽快で本家とは違う、新たな食感の層を作ることができました。

ここから新しい肉焼きライフの
可能性が広がる
BALMUDA The Plate Proは本当によく作り込まれていますよね。あの温度制御はすごく信頼できますし、デザインもいい。これならプロとして依頼された遠征やケータリングなどにも持っていけます。訪れた先で出会った食材を分厚いクラッドプレートで焼きあげて、現地の空気の中で自分で食べたり振る舞ったり――。想像しただけでうれしくなってしまいます。このプレートから新しい肉焼きライフの可能性が広がる。そんなイメージが湧きますね。
文:松浦達也 写真:吉澤健太
