もの作りの現場から始まる
バルミューダの創業者 寺尾玄がもの作りの道に進んだのは、2001年に遡ります。
その11年前の1990年。高校を中退し、わずかな着替えと本と筆記具、ウォークマンを入れた鞄ひとつで地中海沿岸を一年間放浪する旅に出た寺尾は、スペインの大地をバスや徒歩で移動しながら、「豊かさとは何か」を自問自答します。「最小限ですませるには最良の道具が必要である」と学んだのもこの時のことでした。
日本に帰国し、ロックスターになろうと音楽活動に専念したものの、音楽の夢は実りませんでした。本気で望んでも叶わないことがあるんだと、寺尾は初めて挫折をします。やりきるだけやった音楽から次の行動を考えたとき、楽曲制作のために使っていたコンピューターやデスクチェアを通して、「日常の道具の大切さ」を意識するようになっていました。
オランダのデザイン誌との出会いも、もの作りの世界に転身したきっかけでした。デザイナーの積極的な提案や力強い活動の様子を紹介する記事に、大いに鼓舞されたのです。「自分の手で、より良い道具を作りたい」身体を動かしながら、デザインや製品開発を独学する日々が始まりました。
寺尾がまず始めたのは、秋葉原の電気街に足しげく通い、素材の特色や製品の構造を関係者に尋ね、工業製品や製造に関する専門用語をひとつひとつ吸収すること。デザイン、製品開発の広大な大地に立ち、東西南北どちらに向かうのか、自ら地図を描きながらの前進です。
社員一名でのスタート
次に向かったのは製造の現場でした。人から聞いた専門用語をもとに、電話帳で調べた関連の工場に連絡をとって訪ねること、50社以上。多忙を極める現場で相手にされぬことも多いなか、思いに応えてくれた工場もありました。今もつきあいのある東小金井の会社です。
金属切削加工を専門とする同社に作業場を借り、素材を手にとりながら学んでいく。ヤスリ掛けから始めて加工機械の使い方を習得、アルミニウムやステンレススチールなどの金属を加工、組み立てる作業を通して、製造方法はもちろんデザインの重要点も探究する日々となります。
さらにCADを覚えることで、寺尾はついに一台の製品をデザインします。Macのノートパソコンの冷却台で、キーボードの打ちにくさも解決する斜めの台。「より良い道具」に向けた最初の試みは、自らが感じていた課題を解決するための製品でした。
こだわりぬいたアルミニウムのプレートは厚み8mmに。「かっこよくて機能的な道具。作りたかったフォルム」を、自分の手でひとつひとつ組み立てて仕上げていきました。ロゴや専用ウェブサイトも自らデザイン、製品の販売をスタートさせます。
これがバルミューダ製品第一弾となる「X-Base」、2003年のことでした。デザインはすべて独学、小さな部品ひとつに始まり、求めるものを確実に作りあげる過程を手を動かしながら習得していったうえでの、寺尾ひとりでのスタート。バルミューダの誕生です。
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